ハロプロ楽曲大賞2007

ハッピー

楽曲部門4位:ハッピー☆彡

歌の歌詞というものは、何気なく聴き聞き流す分には気にならなくても、歌詞をよく見てみると意味不明なフレーズが並んでいることがあります。たとえば「恋☆カナ」。


「一緒に居れるどころか 夢オチの3連覇
 届きそうに見せるのが イマドキの運命?」


さっぱり意味がわかりません。
また、メロディーに乗っている言葉が、もはや「言葉」というよりも「音」になり、聴覚的面白さのみを狙った分、言葉としては意味不明になっている歌詞があります。たとえば「バラライカ」。


バラライカ バララライカ バラ ライラ カイカイ」


イカイ、って何でしょう?どこか痒いのでしょうか?
恋☆カナ」も「バラライカ」も楽しい曲ですが、「カイカイって何だ?」などと考え始めると、地下鉄はどこから入れたのかを考える春日三球のように眠れなくなってしまいそうです。
その点「ハッピー☆彡」は、歌詞の内容と使われている言葉が明快なところが好きです。言葉をメロディーに乗せなくても、歌詞を読むだけで十分に鑑賞できます。歌詞というよりも詩、あるいは日記風の文学作品と言えるかもしれません。
そこで思い出すのが太宰治の女性一人称独白体の傑作「女生徒」です。一部引用します。


夕焼の空は綺麗です。そうして、夕靄は、ピンク色。夕日の光が靄の中に溶けて、にじんで、そのために靄がこんなに、やわらかいピンク色になったのでしょう。そのピンクの靄がゆらゆら流れて、木立の間にもぐっていったり、路の上を歩いたり、草原を撫でたり、そうして、私のからだを、ふんわり包んでしまいます。私の髪の毛一本一本まで、ピンクの光は、そっと幽かにてらして、そうしてやわらかく撫でてくれます。それよりも、この空は、美しい。このお空には、私うまれてはじめて頭を下げたいのです。私は、いま神様を信じます。これは、この空の色は、なんという色なのかしら。薔薇。火事。虹。天使の翼。大伽藍。いいえ、そんなんじゃない。もっと、もっと神々しい。
「みんなを愛したい」と涙が出そうなくらい思いました。じっと空を見ていると、だんだん空が変ってゆくのです。だんだん青味がかってゆくのです。ただ、溜息ばかりで、裸になってしまいたくなりました。それから、いまほど木の葉や草が透明に、美しく見えたこともありません。そっと草に、さわってみました。
 美しく生きたいと思います。
ここには「ピンクのパワー」と「キラリ光った やさしいキモチ」が表現されています。


ただし「ハッピー☆彡」がそのまま「女生徒」に似ているわけではありません。「ハッピー☆彡」はポジティブ100%の元気ソングなのに対し「女生徒」の主人公はポジティブとネガティブの間で揺れ動いています。たとえば「ハッピー☆彡」において
「清々しい朝のために ハ・ヤ・オ・キ やる気が満ちてく」
と歌われる「朝」は、「女生徒」では次のように描かれています。


 あさ、眼をさますときの気持は、面白い。かくれんぼのとき、押入れの真っ暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと襖をあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、まぶしさ、それから、へんな間の悪さ、それから、胸がどきどきして、着物のまえを合せたりして、ちょっと、てれくさく、押入れから出て来て、急にむかむか腹立たしく、あの感じ、いや、ちがう、あの感じでもない、なんだか、もっとやりきれない。箱をあけると、その中に、また小さい箱があって、その小さい箱をあけると、またその中に、もっと小さい箱があって、そいつをあけると、また、また、小さい箱があって、その小さい箱をあけると、また箱があって、そうして、七つも、八つも、あけていって、とうとうおしまいに、さいころくらいの小さい箱が出て来て、そいつをそっとあけてみて、何もない、からっぽ、あの感じ、少し近い。パチッと眼がさめるなんて、あれは嘘だ。濁って濁って、そのうちに、だんだん澱粉が下に沈み、少しずつ上澄が出来て、やっと疲れて眼がさめる。朝は、なんだか、しらじらしい。悲しいことが、たくさんたくさん胸に浮かんで、やりきれない。いやだ。いやだ。朝の私は一ばん醜い。両方の脚が、くたくたに疲れて、そうして、もう、何もしたくない。熟睡していないせいかしら。朝は健康だなんて、あれは嘘。朝は灰色。いつもいつも同じ。一ばん虚無だ。朝の寝床の中で、私はいつも厭世的だ。いやになる。いろいろ醜い後悔ばっかり、いちどに、どっとかたまって胸をふさぎ、身悶えしちゃう。
 朝は、意地悪。
朝は灰色で虚無で意地悪で、朝の私は醜くて厭世的なのです。「ハッピー☆彡」の朝と正反対です。
このように正反対ながらも僕が「女生徒」を思い出したのは、「女生徒」の主人公の饒舌さが小春ちゃんのそれを連想させたからかもしれません。「女生徒」と似ているのはもはや「ハッピー☆彡」ではなく、ポケモー配信の「久住小春日記メール」かもしれません。たとえば「女生徒」のこの部分、

お風呂がわいた。お風呂場に電燈をつけて、着物を脱ぎ、窓を一ぱいに開け放してから、ひっそりお風呂にひたる。珊瑚樹の青い葉が窓から覗いていて、一枚一枚の葉が、電燈の光を受けて、強く輝いている。空には星がキラキラ。なんど見直しても、キラキラ。
これなどをちょっと加工して顔文字を多用したら立派な「久住小春日記メール」になりそうです。


・・・何の話をしていたのか忘れてしまいそうです。ハロプロ楽曲大賞の話でしたね。というわけで楽曲大賞第4位は「ハッピー☆彡」でした。