なっち

安倍なつみ

なっちは記者会見で、他人の言葉と自分の言葉の区別がつかなくなっていたと言いました。言葉とそれを通じて得られる思考は、その人の個性であり人格です。ところが自分の言葉だと思っていたものが実は他人の言葉だったということは、自分の思考だと思っていたものが他人の思考、自分の個性だと思っていたものが他人の個性だったことになります。盗作という結果は表面的な問題で、これは、自分はいったい何者なのか、というアイデンティティの問題かもしれません。


なっちは、謹慎中に自分を見つめなおし、自分は何者なのか、何ができるのか、何をしたいのかをじっくり考えたはずです。引退という選択肢もあったかもしれませんが、なっちは再び歌う道を選びました。パンドラの箱の中にただひとつ、「希望」が残ったように、なっちの中には「歌」が残ったのでしょう。


自分は歌手であること。それがなっちのアイデンティティであり、歌を歌うこと、それを多くの人の心に届けることが、なっちが自分を取り戻す道であるならば、僕は暖かくなっちを迎え、その歌を受け止めます。それが、今まで歌を通じて多くの感動を与えてくれたなっちへの恩返しです。


なっちが、素敵だなと思ってノートに書きとめた言葉たち。それをあのような形で世に出してしまったことは、自覚の有無にかかわらず盗作と言われても仕方がありません。しかし、なっちが「素敵だな」と感じたその心には一点の曇りもないことを信じています。